EPパレット
第6色 アンサンブルの楽しみ 

「3分の一は伴奏だ。」
今回ベートーヴェンのピアノコンチェルト「皇帝」をやってみて思いました。
特にピアノはオーケストラのどの楽器よりも音域と音量に幅があり、最も自由の利く
楽器なので、独奏曲よりも両手が鍵盤の上を左右にいったりきたり・・・極端に高い
音域を弾く場面もあり、ひたすら他の楽器のメロディの伴奏に徹する時もあり、オー
ケストラスコアを見ていても他の楽器に比べるとずいぶん音が多いなあ。というのが
最初に楽譜を見た時の感想です。

どの曲を演奏するときもそうですが「基本テンポどおり」そして楽譜に忠実に。

これは音楽の鉄則だと私は思うのですが、実際に曲を演奏してみると「本当にメトロ
ノームのテンポどおり」にやってしまうということはまずありえません。(あえてそ
のように演奏して効果のある曲もありますけど)

歌と木管楽器の伴奏をかなりしている時期がありました。ピアノは独奏楽器として自
己完結してしまう事が多いのでなんと新鮮だったことか・・そして何よりも興味深かっ
たのは声楽家や管楽器奏者が「息を使って演奏する」ということでした。

数小節のフレーズはひと息につなげて弾く。とピアノでも楽譜上で習いますが、彼ら
のひと息は本当に自分のからだの「ひと息」です。息の始めと終わりがどこにあるか、
ということが音楽の流れの大部分を決めていきます。息の終わり部分を「メトロノー
ムのテンポに忠実に」やることは身体構造上ありえないし、次のフレーズに進むため
には息をたくさん吸う時間が必要なのでこちらも「メトロノームに忠実な」テンポで
進むことはありえません。

曲を立体的に、そして自然な表情をつけるためには強弱や音色だけでなく、息使いの
重要さを伴奏をしていて気づくことができました。ピアノは極端に言えば息をしなく
ても楽譜を追っていけば弾き続けることができてしまいます。美しいけれど、なんと
なく平面的で退屈な演奏が多いのは「息使い」が影響している場合があるのでは・・

コンチェルトのような大きな曲でも、ソリストがもちろん主役であるべきですが、オー
ケストラ全体の「息使い」のなかに溶けこんで一緒に息をする、ということがとても
重要だと思いました。好き勝手に弾いてオーケストラがなんとなく合わせている、だ
けではコンチェルトの本来もっているエネルギーが発揮できません。

「息をあわせて」と音楽以外の生活でもよく言います。「息をあわせて」ということ
は少人数でも大人数であっても、ひとつの目標に向かって協力して大きなエネルギー
をうみだす原動力だと思います。

音楽の最大の楽しみと意味はこのような部分ではないでしょうか。

実際に音になる前、行動を起こす前の目に見えないお互いの息を合わせる「気」のや
りとりするときの良い緊張感が、予想以上の結果をうみだすカギだと思いました。


2010/7/1 EP 辰巳京子