EPパレット
第2色「音楽ってなんだろう。」

楽譜が人に何かを伝えるためのツールのように思っていた学生時代、私は「表現する」とか「個性をだす」とか「作曲家の意思を伝える」とかを目標に、しゃにむにがんばっていたように思います。
まあ・・正しいといえば正しいのですが、常に今の自分にできることを無視して自分以上の表現をしようとしていたというか。まあ・・これも必要なことで、正しいといえば正しいです(笑)。

人によって色々だと思いますが、「よかったな、またききたいな」という音楽は意外と身近にあったりすることに気づいたのは学生ではなくなって随分時間が経ってからでした。例えば、たまたま通りかかった教会で近所の人が歌っている賛美歌の合唱とか、たどたどしいけど一生懸命弾いている子供の曲とか、自転車に乗って気持ちよさそうに口笛を吹いているひと・・だったりします。専門家がみんな悪い、とは決して思わないですが、専門家ってたまにとても無神経な音を出したり、どこもミスはないけどなんか面白くない演奏をしていたりするのも事実です。もちろん美しくて素晴しい演奏もたくさんありますが。なんでだろう?と時々思います。一生懸命には違いないのに。

楽器を演奏するには確かに専門的な知識と技術が必要で・・でもそれだけだと「よかったな、またききたいな」という音楽にはならないらしい。かといってたまたま聴いた「よかったな、またききたいな」という音楽をやっていた人を舞台にのせて、「さあ!演奏してください!」と言ったところで同じ音楽ができて同じ感動が味わえる、というわけでもないし・・

まだまだわからないことが多いのですが、今の私にとっては何かを表現しようとしてしゃにむにがんばっていた学生時代よりもずっと演奏することが身近になってきたというか、特別なことでも偉いことでもなくなってきています。不思議なことに、昔がんばって練習していたときよりもずっと、曲たちが愛おしく感じるのです。むずかしい曲を弾くには時間がかかりますが、そのかかった時間や考えている時間こそ幸せな時に感じます。

演奏は私の日常です。と言えるようになったことが今は嬉しいです。

2009/10/01 EP 辰巳京子